ハンドルのついた電動車いすの事故が相次いでいる。報道によると、過去3年間に起きた事故13件の重傷・死亡事故のうち、10件までが同じメーカーの製品に集中していることが、消費者庁の消費者安全委員会の調査でわかった。事故の頻度は、他社の製品の10倍以上で、製品の構造が原因の一つとみられることから、消費者安全委員会(消費者事故調)は、メーカーに改善を促し、メーカーもアクセルレバーのつけ方などを検討するという。
重大な事故が相次いでいるのは、松山市にある農業機械メーカー「アテックス」が製造する電動車いすで、他社のブランドで販売されているものも含め、これまでに全国で約8万台が出荷されているという。
身の回りの事故の原因を調べる消費者事故調が、昨年11月からハンドル型電動車いすの事故を調査した結果、平成24年度以降の2年8か月の間に、消費者庁に報告された13件の重傷・死亡事故のうち、8割にあたる10件までが、この会社の製品で起きていることがわかった。このうち、6人の利用者が亡くなっていることがわかったという。
事故は、お年寄りが電動車いすに乗っていて、道路わきに転落したり、踏切で列車にはねられたりして起きている。
消費者事故調は、その原因の一つとして、この会社の製品のアクセルレバーが、他社のものと異なり、ハンドルよりも4センチ高い位置についていることがあると見ている。ハンドル操作がしやすい反面、お年寄りが具合が悪くなってうなだれたり、意図せずにレバーに触ってしまい、レバーを押して前に進んでしまう恐れがあるという。
このため、消費者事故調はメーカーに対して改善をうながした。メーカーは、アクセルレバーのつけ方などについて改善を検討すると消費者事故調に伝えた。
これまでに国内では、ハンドル型電動車いすが約47万台販売されているが、このうち、このメーカーの製品は8万台あまり。重大な事故は他社の製品全体の10倍以上の高い確率で起きているという。
平成24年10月に、兵庫県高砂市でおきた踏切事故では、電動車いすに乗っていた男性(83歳)が、貨物列車にはねられて亡くなった。
この踏切の近くに住む男性が、この事故を目撃していた。NHKがこの男性を取材したところによると、電動車いすに乗っていた男性は、遮断機が下りたため、踏切の手前でとまった。その後、前のめりに体が倒れた後、車いすが動き出し、降りていた遮断機を押し込むかたちで、踏切の中に入ったという。目撃していた男性は、非常ボタンを押そうとしたが、間に合わなかった。この男性によると、「意識が無くなったように前かがみにたおれた。倒れた体が電動車いすのスイッチに触れたのだと思う。」と話しているそうだ。
また、亡くなった男性の家族によると、男性は糖尿病を患っていたため、血糖値をさげる薬を飲んでいた。事故のあった早朝は、前日夕方5時の夕食から食事をしておらず、血糖値が下がったことで、意識を失ったのではないかと話しているそうだ。
亡くなった男性の妻は、「車いすで前かがみになったのは、血糖値が下がったからだと思う。夫は、電動車いすによって、行動範囲が広がって喜んでいた。高齢者が楽しく生活に利用できるよう、より安全な製品にしてほしい」と語っているという。
電動車いすは、30年ほど前から販売が始まった。電動車いすは、主に高齢者が利用するハンドル型と、車いすと似た形で、主に体に障害のある人が利用するジョイスティック型と、2種類ある。
バッテリーを充電してモーターで走行し、時速6kmまで出すことができる。運転には免許は必要なく、歩行者扱いだ。足腰の弱ってきたお年寄りには行動範囲が広がると喜ばれ、利用者が増えてきている。価格は20万から30万円で、介護保険を利用してレンタルすることもできる。
消費者事故調によると、ほとんどの電動車いすは、アクセルレバーがハンドルの上の面よりも下についているが、改善を促した電動車いすは、ハンドルよりも4cmほど上にアクセルレバーがついていたという。
昨年、国際福祉機器展で、あるメーカーの電動車いすに試乗した。アクセルレバーが軽く動き使いやすいと思う半面、何かの拍子で押してしまったり、具合が悪くなって倒れこんだりしたら、レバーを押してしまい、前進してしまうのではないかと思った。
道路交通法では、歩行者扱いの電動車いすは、免許が必要ない。高齢化が急速に進む中、お年寄りの行動範囲が広がるということで、普及が進んでいるという。しかし、高齢者が乗るものだから、事故が起きてもしかたないというのではなく、事故を防ぐ改善も必要となっているような気がする。
高齢者も自分のすむ地域で、自立して生活することが求められている。ならば、なおさらのこと、安全に暮らせるよう、さまざまな改善や安全対策が求められていると思う。
≪追記≫2015年4月4日
株式会社アテックスは、ホームページで、NHKの報道に対して、抗議文を掲載した。
NHKの報道は消費者庁の正式見解ではなく、NHKの独自取材による報道で、消費者庁から改善指示等も受けていないとしている。
「NHK に対する抗議文」2015年4月3日付
http://www.atexnet.co.jp/pdf/20150403.pdf
「NHK報道(電動車いす)による弊社見解」2015年4月2日付
http://www.atexnet.co.jp/pdf/kenkai.pdf
≪参考記事≫
「電動車いす事故 同メーカーに集中」2015年3月31日NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150331/k10010034301000.html
≪参考≫拙ブログでは、消費者事故調の調査について、以下でとりあげた。
●「ハンドル型電動車いすの事故調査を決定~消費者安全委員会」2014年11月25日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/11/blog-post_25.html
また、電動車いすの事故については、高知県佐川町白倉踏切の事故や、阪急神戸線旧庄本踏切の事故などについて書いた。これらの事故の電動車いすは、製造メーカーがわからないものもある。
●「踏切事故の現場をたずねて~高知県佐川町白倉踏切」2010年4月26日
http://tomosibi.blogspot.jp/2010/04/blog-post_26.html
●「電動車いすの女性が亡くなった事故~阪急神戸線旧庄本踏切」2014年5月6日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html
●「電動車いすのお年寄りが亡くなった事故~大阪府高石市南海本線羽衣7号踏切」2014年7月22日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/07/7.html
●「車いすで踏切を渡るこわさ」2014年10月20日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/10/blog-post_20.html
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