2012年8月31日金曜日

「震災関連死」~10都県で1632人に

 
 復興庁が公表した調査によると、福島県内では、「震災関連死」のうち、避難所に移動する際の疲労が、原因の過半数を占めていることがわかった。

 今年3月末時点で、東日本大震災をきっかけとした「震災関連死」と認定された人は、10都県で1632人にのぼった。このうち、福島県は761人、岩手、宮城両県は829人で、3県合計で97%を占めた。復興庁は、この3県の18市町村から1263人を選んで、原因を分析した。

 原因別で、もっとも多かったのは、「避難所生活などでの肉体的疲労・精神的疲労」で、福島県は433人(59%)、岩手宮城両県は205人(39%)だった。
 特に、福島県では、「避難所などへの移動中の肉体・精神的疲労」の380人(52%)と、岩手・宮城両県の21人に比べて非常に多いことがわかった。

 原発事故の後、避難指示が拡大され、移動を繰り返さなくてはならなかったことが、大きな負担になったとみられている。復興庁は、「福島県は他県に比べ関連死者数が多い。原発事故に伴う避難などによる影響が大きい」と分析した。また、東京電力福島第一原発事故のストレスが直接の原因とされたのは福島、岩手、宮城の3県で34人に上っているという。

 原発事故の後、事故の情報が乏しい中、避難を余儀なくされ、避難所の寒さや食料不足に耐えねばならなかった。その上、避難生活が終わり故郷に帰るという展望も持てないまま、疲労を重ねて行けば、体調もくずしかねない。

 避難されている方々が一刻も早く帰郷できることを願うばかりだ。すぐに帰郷できないのならば、安心して生活できるよう、国や東京電力は、避難されている方々に仕事やゆったりとした温かな住まいを提供すべきだと思う。

《参考記事》
「原発事故の心労死34人 震災関連死 避難生活も負担に」朝日新聞デジタル2012年8月21日

徹底した事実の解明を~大津市の中学生の自殺

 
 昨年10月、滋賀県大津市で、いじめを受けていた市立中学2年生が自殺した。
 その後、学校が行った全校生徒に対するアンケートで、同中学校の生徒15人が、自殺した男子生徒が自殺の練習をさせられていたと聞いたと答えていた。
 しかし、男子生徒がいじめを受けていた状況を調査する必要がありながら、大津市教育委員会は、昨年11月の会見では、このアンケートの事実は公表せず、調査も打ち切った。

 市教育委員会は、男子生徒に対するいじめがあったことを認めたが、「いじめと自殺との因果関係は判断できない」として、最終的な判断は民事訴訟の結論を待つ構えもみせている。
 大津市は、再調査をするため、第三者委員会を設置し、委員は遺族側から推薦を受けた尾木直樹法政大学教授ら3人と、大津氏が関係団体に推薦を依頼した専門家ら3人が決まった。
 報道によると、大津市がまとめた第三者委員会についての要綱案では、第三者委員会の調査目的を「自殺の原因を考察すること」などとした。遺族側は、第三者委員会でいじめと自殺との因果関係を明らかにすることを希望したが、市教育委員会側は「裁判所が判断すること」として、最終的な判断については、民事訴訟の結論を待つ構えのようだ。

 協議の結果、要綱案には「いじめの事実を含め、学校で起きたことを明らかにし、自殺の原因を考察する」と明記、いじめの事実解明や学校の対応などを調査するとした。
 また、要綱案では、いじめや自殺の再発防止に向けた提言をまとめることも盛り込まれたという。

 なぜ、自分の大切に育ててきた子が、死を考えるまでに至ったのか、なぜ死ななくてはならなかったのか、ご両親は事実を知りたいと思うにちがいない。
 NPO法人「ジェントルハート」が一昨年、学校で事故にあった本人や子どもが自殺した遺族らに行ったアンケートによると、学校や教育委員会の事実調査が「適切」「ほぼ適切だと思う」と答えたのは、合計7.9%だったという。一方、第三者による調査委員会や調査機関を「必要」「条件が整えば必要」と答えた家族は合計76%にのぼった。

 大切な子どもたちの死を無駄にしないために、事実関係を調査し、二度と同じようなことのないように、いじめと自殺を防ぐ対策を講じてほしいと思う。

 
 
《参考記事》
「弁護士、いじめ経緯調査…大津第三者委」(2012年8月27日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120827-OYO1T00221.htm?from=main1
「いじめ調査、成果に差 自殺解明、各地で第三者委設立」(2012年8月25日朝日新聞デジタル)
http://digital.asahi.com/20120825/pages/national.html
「大津中2自殺 『原因を考察』明記 市第三者委要綱案」(2012年8月21日京都新聞)
 
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20120821000019
「『自殺の練習させられた』生徒が指摘、教委調査せず」2012/07/04 02:00   【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201207/CN2012070301005696.html

2012年8月15日水曜日

二重ローン対策~被災ローン減免制度の周知を

 昨年の東日本大震災後、津波などによって消失した住宅のローン等が残ってしまう問題、「被災ローン」問題が、被災された方々の生活再建にとって大きな負担になっていることが指摘されていた。
 昨年、被災地での法律相談などを通じて、この債務問題が被災者の大きな悩みであることを知った日本弁護士連合会ではこの問題の解決策を各方面に働きかけた。2011年7月、この働きかけを一つの契機に、金融庁、金融機関、最高裁、有識者などからなる研究会が発足した。
 
 研究会での検討の結果、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が制定され、2011年8月から運用が開始された。
 この制度は、
①被災者の資産事情に応じ、一定の弁済をすれば、残額は免除される
②手元に義援金や支援金のほか500万円の資産を残して、生活再建できる
③保証人も利用できる
④破産などの法的手続きが不要
⑤信用情報に登録されない
⑥利用無料――など
被災者にとってたいへん有益な制度のはずである。

 しかし、この制度を運用する一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会の発表によると、2012年7月末までに、成立に至った件数は43件にすぎないことがわかった。
 被災後1年間に、被災3県に本店を置く地銀・信金・信組で返済条件変更(リスケジュール)された債務は1万6423件にのぼり、重い債務を背負ったほとんどの被災者は、返済条件を変更するリスケジュールをしており、ローンを先延ばしされていることがわかった。つまり、ローンは減免されることなく、元金も利息も満額支払うことになる。

 一方、日銀の金融経済概況によると、被災者への貸し出しは低調だが、預金残高は義援金や支援金などの入金で高い伸びを示し、一部金融機関の収益はV字回復をしているそうだ。
 被災された方々の中には、本来ならば、生活再建に充てられるはずの義援金や生活再建支援金を債務の返済に充てている方も見られるという。全国から寄せられた善意の義援金や、特例法で注入された公的資金が、被災地金融機関の収益の改善に消えているといってもよい。
 
 金融機関は債務者の身近な相談窓口として、また、公的資金を注入された金融機関は社会的責任として、被災者に上記のような減免制度があることを知らせ、積極的に利用することをサポートすべきではないかと思う。
 金融庁は、今年7月24日付で、金融機関に対して被災者に対する被災ローン減免制度の紹介等を求めた。金融庁は、今後も、金融機関が積極的に減免制度を活用しているか監督、指導すべきだ。
 
 被災された方々が平穏な生活をとりもどし、被災地を復興するためにも、①この制度の広報を徹底し、②被災地金融機関は周知活動し、③被災地自治体が積極的に関与するなどの対策が必要となる。
 被災された方々の一刻も早い生活の再建を願うものとして、今後も、このような制度が活用されているかどうか、監督官庁が積極的に金融機関を指導しているかどうか、注視していきたい。

《参考》
「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」
2011年7月 個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会
http://www.kgl.or.jp/guideline/pdf/guideline.pdf

《参考記事》
<私の視点>「二重ローン対策 被災者に減免制度知らせよ」
(津久井進日弁連災害復興支援委員会副委員長)2012年8月11日付朝日新聞オピニオン欄