2015年9月30日水曜日

横浜市中山駅川和踏切の事故から二年

 踏切に倒れていたお年寄りを助けようとした村田奈津恵さんが亡くなって、明日で二年がたつ。

 報道によると、村田さんは、父親と会社に戻る途中で、父親の運転する車の助手席にすわっていた。川和踏切にさしかかり、遮断機の前で踏切が開くのを待っていると、お年寄りが踏切内に入ってきた。踏切内の横たわったお年寄りを助けようと、父親の制止を振り切り、遮断機をくぐり、お年寄りに近づき、線路の間に横たわらせた。直後、電車が踏切に入ってきた。村田さんは電車に撥ねられて亡くなった。
横浜市中山駅そばの川和踏切。横浜線の電車が通過する。
                       2015年9月30日撮影

 事故当時、なぜ村田さんは亡くなったのかと思った。なぜ、電車の運転士は、踏切の手前で止まれなかったのか。
 事故当時、川和踏切には、警報機も遮断機も、障害物検知器や非常ボタンも設置されていた。 
 しかし、踏切内の異常を電車の運転士に知らせる踏切の障害物検知器が、人を検知しない設定になっていた。鉄道会社によれば、人を検知するように設定すると、小動物なども検知してしまい、その都度、電車を緊急停止することになって、運行に支障をきたすというのだ。
 川和踏切はそんなに広くない踏切なのに、バスやトラックなどが行きかい、その横の狭い路側帯をお年寄りや子供を連れた母親、車いすの人たちが通行する。踏切は車両だけでなく、多くの人が通行している。だから、踏切内に取り残された人も検知できるようにすべきだと思う。検知したら、電車がすぐ止まらなくても、減速して踏切に接近すれば、その間に取り残された人も踏切から脱出できるかもしれない。
 
 電車が衝撃すると、多大な被害をうける自動車は検知するように設定しているのに、なぜ、人は検知しないのか。そのとき、いだいた問いかけは、今も続く。
 事故の後、踏切で人を検知し電車を安全に止めるしくみを考えようと、さまざまな取り組みが進められているときく。
 
 また、川和踏切では、非常ボタンの位置がわかるように目印となる張り紙をしたり、踏切の上に信号を設置し、遠く離れた車両からも、踏切の信号がわかるようにした。
 
 村田さんの尊い命が生かされるように、二度と同じような事故が起きないように、踏切の改善と安全対策をすすめてほしい。高架化の計画があるならば、スピード感をもって取り組んでほしいと思う。

 最後になりましたが、心より村田奈津恵さんのご冥福をお祈りいたします。
川和踏切には献花台が設けられていた。
その横には村田さんのメッセージが
貼られていた。    2015年9月30日撮影

≪参考≫
拙ブログでは、2013年10月、この事故について書いた。
「踏切の障害物検知器、人を感知せず~JR横浜線川和踏切」2013年10月3日
http://tomosibi.blogspot.jp/2013/10/blog-post_3.html
「お年寄りを助けようと踏切へ~JR横浜線川和踏切」2013年10月2日
http://tomosibi.blogspot.jp/2013/10/blog-post.html

2015年9月2日水曜日

大阪市教育委員会、組体操の段数制限へ~児童・生徒の安全を優先

 報道によると、9月1日大阪市教育委員会は、市立小中高校の運動会で行われている組体操「ピラミッド」「タワー」の段数を制限することを決めた。全国で、組体操中の骨折事故などが多数報告されていることを受けて、規制に踏み切った。組体操の段数の制限は全国でもめずらしいというが、専門家からは、危険性が指摘されていた。

 四つん這いになって重なるピラミッドの高さは5段まで、肩の上に立って重なるタワーは3段までに制限することとし、市立幼稚園や特別支援学級も規制の対象にする。
 大森不二雄委員長は「組体操が運動会の華でありつづけて良いのか。『いくらなんでも』と言われないよう上限を設けた。実施にあたっては、安全性が確保できるか校長が慎重に検討し、不安を覚えたらやめていただきたい」と話しているという。

 ピラミッドの9段の高さは6~7mに達し、建物の2階相当、タワーの5段も3~4mに達する。
日本スポーツ振興センター(東京)によると、全国の組体操中の事故は2013年度、小学校で6349件、中学校1869件、高校343件起きている。骨折事故は小中高合わせて2千件を超すという。
 名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)によると、2004年から2013年度までの10年間に、全国で死亡事故の報告はないものの、障害の残るケースが19件あったという。内田准教授は
「感動や一体感ではなく、何よりも児童・生徒の安全が重視されるべきだ」と話している。
 
 内田准教授の著書によると、労働の安全衛生についての基準を定めた「労働安全衛生規則」(厚生労働省)は、高所での作業について定めている。ここには、床面からの高さ2m以上の高所での作業について、「墜落等による危険の防止」のために、細かな規制が定められている。長くなるが引用する。

 第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある個所には、囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
 2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

 内田准教授は、労働者である大人が2メートル以上のところで仕事するときには、ここまで厳しい管理が事業者に求められているのに、子どもたちが組体操という高所での教育活動に従事するときには、学校側には何の管理も求められていないと指摘する。

 組体操には「囲い」もない。「手すり」も「覆い」も「防網」もない。子どもたちは、つかまるところもない状況で、組体操という高所作業に取り組んでいるのだ。大人の労働の世界ではあってはならないことが、子どもの教育の世界では繰り広げられている。
 また、組体操の巨大化は、高所にのぼる子どもを危険にさらすだけでなく、土台となる生徒にかかる負担にも注目しなければならないという。
 内田准教授が、人間ピラミッドの基本形10段を例にして、土台(1段目)にかかる負荷量を計算した。
 それによると、10段(計151人)の場合、土台の中でもっとも負担が大きいのは、背面から2列目の中央にいる生徒で、3.9人分の負荷がかかる。中学2年男子(全国平均48.8kg)で約4人分計190kgの重量が、一人の生徒にのしかかっているというのだ。

 なぜ、それほどまでに危険な組体操をするのか。
戦後の一時期をのぞいて、「学習指導要領」から姿を消した「組体操」。2000年代に入って、再び取り組まれるようになり、巨大化・高層化した。また、低年齢化した。
 組体操を指示する教育者によれば、組体操の教育的意義は子どもが「感動」や「一体感」「達成感」を味わうことができることにあるという。しかし、その教育的意義に目を奪われて、危険性が見えなくなっているのではないか。子どもたちが信頼し合って巨大なオブジェを作り上げることの意義にばかり目がいき、リスク管理を忘れているのではないか。

 「感動」や「一体感」は、組体操を巨大化・高層化しなくても得られるのではないだろうか?運動会の演目で、感動を呼ぶものが危険であってよいはずがない。

 私は、子どもたちが運動会で元気に楽しそうに走りまわるのを見るだけで感動している。

≪参考≫ 
内田良(名古屋大学大学院准教授)著
「教育という病 子どもと先生を苦しめる『教育リスク』」 光文社新書
≪参考記事≫
「人間ピラミッド5段まで 事故防止へ、大阪市教育委員会が規制」2015年9月1日朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASH805CRNH80PTIL01P.html