2004年12月、横浜市立奈良中学校で、柔道部の男子生徒(当時中学3年生)が男性顧問の教諭に柔道の技を掛けられて重傷を負った。その後、脳に後遺症を負った。神奈川県警は07年7月に傷害容疑で顧問の教諭を書類送検したが、横浜地検は嫌疑不十分として不起訴処分にした。その後、横浜第1検察審査会が不起訴不当としたが、同地検は09年12月、再び不起訴とした。生徒と両親は07年12月、顧問と横浜市と神奈川県に損害賠償を求めて、提訴した。
報道によると、12月27日、この裁判の判決が横浜地裁で言い渡され、森裁判長は判決理由の中で「男性のけがは、教諭の掛けた技で脳の静脈を損傷したのが原因」と因果関係を認定した。「教諭は技を中止するなどの義務があったのに怠った」と学校側の過失を認め、賠償を命じた。
自分の首も支えられないほどふらふらになるまで練習させられ、技をかけられて投げられると、頭をぶつけなくても回転加速度が起こり、急性硬膜下血腫やびまん性軸索損傷を発症するという。首が座らない赤ちゃんを激しく揺さぶった場合(1秒間に3~4回くらいの激しい揺さぶり)、首を支点に頭が激しく揺さぶられると、脳と頭蓋骨がずれて急性硬膜下血腫やびまん性軸索損傷を発症するが、これと同じことが柔道事故でも起きているということがわかった。
報道によると、日本スポーツ振興センターは毎年、「学校の管理下の死亡・障害事例と事故防止の留意点」を発表している。学校事故などを研究する名古屋大学の内田良准教授が、この発表を集計したところ、2010年度までの28年間で、少なくとも全国で114人が死亡していることがわかった。競技人口当たりの発生率は、他競技に比べ突出し、年平均4人が亡くなっていた。
死因分析では、技を掛けられた時の衝撃などにより、頭部外傷が生じて死に至ったケースが中学は約8割、高校は約6割に上っていた。
当時中学の柔道部員だった男性の父親で「全国柔道事故被害者の会」の会長でもある小林さん(65歳)は、「実態から目がそむけられたことで、多くの被害を生んだ。裁判所の公正な判決を事故防止の出発点にしたい」と語り、「欧米で事故を防げて、柔道発祥の日本でできないはずがない。二度と子どもの命をないがしろにしたくない。国も学校も、指導者も保護者も、危機意識を強く持ち、安全対策を勉強しなければならない」と訴えている。
中学校では、平成24年度から武道が、1,2年次男女とも必修になり、剣道・柔道・相撲の中から、各中学校が選択して授業を行う。各都道府県の教育委員会では、柔道経験の豊富な体育教員が少ないため、教員の講習会を開いている。
中学での柔道事故の死亡確率が(10万人あたり)、2.376人と次に多いバスケットボールの0.371人と比べて、突出して高いといわれている。
柔道事故を防ぐため、全国柔道連盟では、2013年度から柔道の安全な指導ができる資格者制度をつくることを決め、新たに指導者になるには、30~40時間の講習と試験が必要になる。
しかし、現在の指導者は3時間で資格が取得できる。また、学校の教員は、特例措置ですべて資格が取得できるという。
一方、事故が起きたら、第三者委員会をつくり、事故原因を調べ、再発防止策までつくるべきだと、小林さんらは訴えている。
柔道事故の犠牲をなくし、安全に子どもらが柔道を学べるよう、関係する機関や指導者には安全な指導とは何か考えてほしい。
《参考記事》
「責任認定なぜ7年も」 2011年12月28日朝日新聞神奈川版2011年12月28日
http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000001112280005
「奈良中柔道事故訴訟きょう地裁判決、父「事故防止の出発点に」/横浜」
カナロコ 12月27日(火)5時0分配信
◆奈良中柔道事故 2004年12月、横浜市立奈良中学校で、当時中学3年生の柔道部員の男子生徒が男性顧問に技を掛けられ重傷を負い、後に脳に後遺症を負った。県警は07年7月に傷害容疑で顧問を書類送検したが、横浜地検は嫌疑不十分として不起訴処分とした。その後、横浜第1検察審査会が不起訴不当としたが、同地検は09年12月、再び不起訴とした。生徒と両親は07年12月、顧問と同市と県に損害賠償を求め提訴した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111227-00000005-kana-l14
「中学柔道事故で賠償命令、横浜 県と市に計8900万円」共同通信2011年12月27日
http://www.47news.jp/CN/201112/CN2011122701001137.html
2011年12月28日水曜日
2011年12月27日火曜日
遺族がJR東を提訴~諏訪市武津踏切事故
2008年5月4日、午後12時9分ころ、諏訪市四賀のJR中央東線(単線)の武津踏切(第3種、警報機あり、遮断機なし)で、部活から帰る途中の中学1年生(当時12才)が、下り列車特急スーパーあずさに踏切で撥ねられ、脳挫傷のため亡くなった。
中学生の母親は、第1回裁判で意見陳述をした。その中で、「事故は踏切に入った人だけが原因で起こるのではないと思います。事故原因を、あらゆる角度からひとつひとつ丁寧に調べ、事故を未然に防ぐにはどうしたらいいのかという安全対策を真剣に考えなければならないと思います。」と語り、同じような事故が繰り返し起きないよう、JR東に踏切の安全対策を考えてほしいと訴えている。
《参考》
第62条 第1項 踏切保安設備は、踏切道通行人等及び列車等の運転の安全が図られるよう、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができ、かつ、踏切道の通行を遮断することができるものでなくてはならない。ただし、鉄道及び道路の交通量が著しく少ない場合又は踏切道の通行を遮断することができるものを設けることが技術上著しく困難な場合にあっては、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができるものであればよい。
この事故で亡くなった中学生の両親が、今年10月、JR東日本に対して、踏切に遮断機が設置されていれば事故は防げたとして、損害賠償を請求する訴えを起こした。
亡くなった中学生の両親の訴状によると、武津踏切は、幅約1.9m、長さは8.45mある。事故当時、諏訪市が設置した侵入防護柵は何者かによって外され、踏切手前の道路わきに放置されたままになっていた。
武津踏切は、国道20号線と旧甲州街道とを結ぶ位置にある。中央本線北側には中学校、南側には小学校、近くに高校などがあり、児童や生徒が通学路として利用している。高齢者や児童をふくむ付近の住民の生活道ともなっている。
この付近の中央本線の線路はまっすぐで、踏切内に立つともちろん見通しはよいが、踏切手前では、両側にある民家や駐車場に駐車している車に踏切左右の見通しを遮られ、近づく列車が見えない。遮断機がないため、通行者は列車の音が聞こえないから大丈夫ではないかと、つい踏切に入ってしまいかねない。その上、スーパーあずさは音が静かで、踏切に接近するのがわかりにくい。
また、茅野から上諏訪にかけては線路がほとんど直線に敷設されているので、列車は武津踏切を高速で通過する。とくに中学生を撥ねた特急スーパーあずさは、武津踏切付近を時速100km程度(秒速27.8m程度)で通過している。踏切の手前で見通しが悪く、列車が見えないと思っていても、すぐそばにスーパーあずさが来ていたりして危険である。
訴状によると、武津踏切では、過去に、耳の不自由な高齢者が事故に遭い死亡するなど、2件の死亡事故が起きているという。そのため、付近の住民は、中学生の事故以前から、踏切が危険であると心配していた。
2008年5月4日 諏訪市四賀 事故直後の武津踏切。
スーパーあずさが停車しているのが見える。(長野日報提供)
事故から半年たった2008年11月22日、遮断機が設置された。
2008年11月23日撮影。
2008年11月23日撮影。
この事故の後、武津踏切に3本の侵入防護ポール、注意喚起の路面標示と看板が設置された。また、事故の半年後の11月には、亡くなった中学生の父母や学校、住民らの要望で、武津踏切に遮断機が設置された。
諏訪市内には、武津踏切の他にもう一か所、第3種の踏切があり、以前に、小学生が先に入った子どもの後を追って踏切に入り、列車に撥ねられて亡くなる事故が起きていた。また、茅野市でも第3種踏切で、小学生が前を行った子どもの後を追って踏切に入り、列車の撥ねられて亡くなっている。武津踏切の事故の前にも、子どもや高齢者が亡くなる事故がくりかえし起き、以前よりもスピードの速いスーパーあずさなどの列車が走り、列車の運行本数も増えているのに、JR東は武津踏切や中大和踏切に遮断機を設置しなかった。
中学生の母親は、第1回裁判で意見陳述をした。その中で、「事故は踏切に入った人だけが原因で起こるのではないと思います。事故原因を、あらゆる角度からひとつひとつ丁寧に調べ、事故を未然に防ぐにはどうしたらいいのかという安全対策を真剣に考えなければならないと思います。」と語り、同じような事故が繰り返し起きないよう、JR東に踏切の安全対策を考えてほしいと訴えている。
「鉄道会社は列車に乗っている人の安全だけを考えるのではなく、踏切を利用する人の命を守るという安全も考えていただきたいと思います」とも語り、それはJR東が一企業として、果たすべき責任だとしている。
そして、母親は意見陳述の最後を「子どもだけでは命を守れない、大人が動いて子どもを守っていかなければいけない、(危険な踏切を放置せず)遮断機を付けていたら、子どもの命は今も生きている」と、締めくくった。
これまで、踏切事故の多くは、踏切に入った通行人や車両の運転手の不注意が原因だとされ、事業者は踏切事故の報告を地方運輸局に提出するだけで、事故調査をせず、従って再発防止のために具体的な安全対策をとることはほとんどなかった。警察や学校などが事故現場に注意喚起の看板を設置したり、鉄道事業者や地元警察が踏切事故防止キャンペーンと称して、運転手や通行者に注意を促すくらいだった。
しかし、人間に厳しく注意を促すだけでは、事故は無くならないことは、昨今のヒューマンエラーの研究から明らかだ。事故をあいまいにせず、調査・分析することで、事故を防ぐにはどんな安全対策が必要なのか明らかになると思う。踏切事故をなくすために、関係機関や事業者が踏切事故を調査し、有効な安全対策をとってほしいと思う。
●「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年国土交通省令第151号)
第40条 踏切道は、踏切道を通行する人及び自動車等(以下「踏切道通行人」という。)の安全かつ円滑な通行に配慮したものであり、かつ、第62条の踏切保安設備を設けたものでなければならない。第62条 第1項 踏切保安設備は、踏切道通行人等及び列車等の運転の安全が図られるよう、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができ、かつ、踏切道の通行を遮断することができるものでなくてはならない。ただし、鉄道及び道路の交通量が著しく少ない場合又は踏切道の通行を遮断することができるものを設けることが技術上著しく困難な場合にあっては、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができるものであればよい。
●踏切道改良促進法施行規則(平成13年国土交通省令第86号)の中で、踏切保安設備の整備の指定基準として、以下の点を挙げている。
①
自動車の通行が禁止されていないもの
②
3年間において3回以上、または1年間に2回以上の事故が発生しているもの
③
複線以上の区別があるもの
④
踏切を通過する列車の速度が120㎞毎時以上のもの
⑤
付近に幼稚園または小学校があることその他の特別の事情があり危険性が大きいと認められるもの
2011年12月2日金曜日
遮断機下りない踏切を列車が通過~ミスを防ぐ安全対策を
報道によると、11月11日東京都日野市で遮断機が下りていない踏切を京王電鉄の電車が通過するというトラブルがあった。京王電鉄は、このトラブルの調査と分析をすすめている。まだ踏切の誤作動の原因は分かっていないが、運転士や運輸指令所が注意していれば今回のトラブルは防げた可能性があることがわかってきたという。
同社では、昨年6月から今年3月、同様のミスが5件発生しており、けが人はなかったが、一歩間違えば大事故になりかねないミスが続いている。同社は、遮断機が下りていない踏切に電車が進入するミス5件について、国土交通省から2回警告を受けている。
踏切の手前には、遮断機が下りると、点灯する踏切遮断表示灯があり、運転士がこれをみていれば、下りていないことがわかったかもしれないという。踏切手前で、自動列車制御装置(ATC)により非常停止した後、運転を再開する際に、この表示灯を確認すべきではなかったのか。
京王電鉄によると、この表示灯は保守用途で設置されたもので、日常の運行の際運転士には、確認の義務はないという。又、運輸指令所には、踏切の状況を確認できるモニターがあったが、運行を指示するフロアーとは別のフロアーに設置されていた。指令所がこのモニターで、踏切の状況を確認して再開を指令すれば、今回のようなミスを防げたのではないか。
京王電鉄は「今回のような事例が起きた場合、運転再開後も踏切の手前ではいったん停止し、遮断機が下りていることを運転士が目視で確かめるよう指示」、再発防止を図るという。
トラブルのあった周辺は、住宅地で交通量の多い踏切ではないかと思う。京王電鉄は踏切の誤作動の原因を徹底して調べるとともに、なぜ遮断機の下りていない踏切を列車が通過したのか調べ、二度と同じミスを重ねないように、有効な再発防止策を講じてほしい。
《参考記事》
「下りない踏切 通過防げた? ミス続き京王 徹底検証を」2011年11月27日 07時06分
(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011112790070610.html
同社では、昨年6月から今年3月、同様のミスが5件発生しており、けが人はなかったが、一歩間違えば大事故になりかねないミスが続いている。同社は、遮断機が下りていない踏切に電車が進入するミス5件について、国土交通省から2回警告を受けている。
踏切の手前には、遮断機が下りると、点灯する踏切遮断表示灯があり、運転士がこれをみていれば、下りていないことがわかったかもしれないという。踏切手前で、自動列車制御装置(ATC)により非常停止した後、運転を再開する際に、この表示灯を確認すべきではなかったのか。
京王電鉄によると、この表示灯は保守用途で設置されたもので、日常の運行の際運転士には、確認の義務はないという。又、運輸指令所には、踏切の状況を確認できるモニターがあったが、運行を指示するフロアーとは別のフロアーに設置されていた。指令所がこのモニターで、踏切の状況を確認して再開を指令すれば、今回のようなミスを防げたのではないか。
京王電鉄は「今回のような事例が起きた場合、運転再開後も踏切の手前ではいったん停止し、遮断機が下りていることを運転士が目視で確かめるよう指示」、再発防止を図るという。
トラブルのあった周辺は、住宅地で交通量の多い踏切ではないかと思う。京王電鉄は踏切の誤作動の原因を徹底して調べるとともに、なぜ遮断機の下りていない踏切を列車が通過したのか調べ、二度と同じミスを重ねないように、有効な再発防止策を講じてほしい。
《参考記事》
「下りない踏切 通過防げた? ミス続き京王 徹底検証を」2011年11月27日 07時06分
(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011112790070610.html
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