2012年1月31日火曜日

踏切事故の調査と再発防止策

 私たち踏切事故の被害者の家族は、国土交通省に対して、各鉄道事業者が踏切事故の原因を調べ再発防止策をとるよう指導すべきだと要望してきた。平成22年4月、鉄道局から各地方運輸局に、鉄道事業者が報告する「鉄道運転事故等届出書」(以下届出書と略)について改善するよう通達が出された。
 その結果、平成22年度から「届出書」の備考欄が詳しくなり、事故情報がより詳しく書かれるようになった。

  国土交通省鉄道局では、毎年「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報」という鉄道事故の統計と安全対策の状況をまとめたものを出している。
 私たちは、この統計のもとになる各鉄道会社の事故の報告がどのようになされ、事故の調査と再発防止策がどのようになされているのか、深い関心を持ってきた。

 しかし、事業者が各地方運輸局に提出する事故の届出書には、踏切で列車とぶつかった運転者や歩行者の性別や年齢などが記入されていない届出書の多いことが、「鉄道運転事故等一覧表」(国土交通省鉄道局、以下、一覧表と略)に関する私たちの分析からわかった。
 この「一覧表」の死亡事故情報を記入する「概況」欄には、事故情報の記載が簡単で、事故を起こした列車の番号や速度の記載のない物が多く、警察の事故情報と「概況」欄の記載とが異なるものもあった。
 
  このように事業者が提出する「届出書」の事故情報が不十分では、有効な安全対策が講じられれないと思う。私たちは、踏切事故を無くすには、正確な事故情報を集め、分析し、再発防止策を講じることが必要であると、鉄道局や運輸安全委員会に要望してきた。

 2010年4月 、鉄道局はこの「届出書」の「概況」欄に、事故等の状況がわかるように、「・事故等に至った状況、・関係する鉄道係員の事故等発生時の取り扱い、・関係する車両及び鉄道施設の事故発生時の状況」の記入を事業者に指導するよう、各地方運輸局に通達した。
 
  また、「備考」欄には、踏切事故については列車に衝撃した運転者等の年齢及び性別を記入すること、運転者等が身体障害者である場合は障害の内容を記入する、車両が原因である場合は車両形式を記入する、第3種及び第4種踏切で発生した事故で過去3年間に同じ踏切道で事故が発生している場合はその発生年月日を記入する等、重要な事故情報が書きくわえられることになった。
 その結果、平成22年度の「鉄道運転事故等一覧表」は、「備考」欄に事故で亡くなった人の年齢や性別が記入され、障害のあった方はその内容が記入された。事故の「概況」欄の記載には、ばらつきがあると感じられるものの、列車の速度や列車番号、係員の事故対応などが書かれるようになった。

 また、この「届出書」の事故情報をもとに作成された「鉄軌道の輸送にかかわる情報(平成22年度)」(以下、「情報」と略)では、事故に関係した歩行者や運転手の年齢別の統計があらたに作成され、高齢者の事故が多いことがわかった。踏切事故303件のうち、70歳以上の高齢者は26.1%、60歳以上では43.6%を占めている。(「情報」p.14)
 また、「情報」では、踏切種別ごとの事故件数が作成され、衝撃物別・原因別の事故件数では、自動車・二輪車・軽車両・歩行者別の統計も作成されている。

 これを見ると、平成22年度は踏切道100箇所あたりの踏切事故は第1種踏切では、0.81件、第3種踏切では0.81件、第4種踏切では1.64件となっている。
 また、自動車の直前横断による事故は踏切道100箇所あたり、第1種踏切では0.09件なのに対して、第3種踏切では0.81件、第4種踏切では0.84件と、事故の割合が第1種に比べて約9倍と、非常に高くなっている。(「情報」p.15

 「情報」の中で、鉄道局も指摘するように、一般的には第1種踏切が道路の交通量や列車の本数が第3種第4種に比べて多く、その上列車の速度も高いことを考えると、第3種第4種踏切がいかに事故の割合が高く、危険かがわかる。
 周辺環境も含め、事故情報を詳細に把握し、事故がどこでどのように起き、どのような人たちが犠牲になっているのかを分析することは、同じような事故を防ぐことにつながる。

 鉄道事業者がまず、事故を詳しく調査し、事故を防ぐ安全対策を講じることが大切だと思う。そして、事業者によって安全対策が確実に実施されているかを、行政はしっかりとチェックしていくべきだと思う。
《踏切の種別》
1種踏切道:警報機・遮断機があるもの
2種踏切道:現在はない
3種踏切道:警報機があるが、遮断機がないもの

4種踏切道:警報機・遮断機ともないもの
詳しくは「情報(平成22年度)」p.32~33参照

《参考》
「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成22年度)」(国土交通省鉄道局)
http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk8_000011.html

2012年1月23日月曜日

政府「原子力災害対策本部」、議事録作成せず

報道によると、東京電力福島第一原子力発電所の事故について、避難区域や除染の方法など重要な決定を行ってきた政府の「原子力災害対策本部」の議事録が作成されていなかったことがわかった。

政府の「原子力災害対策本部」は、総理大臣を本部長として、経済産業相はじめ、全閣僚をメンバーとして、原発事故当日の昨年3月11日に設けられた。避難区域や除染の基本方針、農作物の出荷制限など原発事故をめぐる重要な決定を行ってきた。NHKでは、昨年11月、それまでに開かれた21回の会議について、「議事録や内容をまとめた資料など」の情報公開請求を行った。しかし、公開されたのは、議題を記した1回の会議について、1ページの「議事次第」だけで、議論の中身を記した議事録は作成されていないことがわかった。
NHKの取材に対して、原子力災害対策本部の事務局を務めている原子力安全・保安院の担当者は、「業務が忙しくて議事録を作成できなかった」と説明しているという。
公文書管理法は、国民への説明義務を果たすこと、政府の意思決定の過程を検証できるよう、重要な会議の記録を残すよう、定めている。公文書の管理を担当する内閣府は、原子力安全・保安院の担当者から、聞き取りを行などして、経緯を調べている。

将来、同じ失敗を繰り返さないために、いつどのような決定がなされたのか、記録に残し、検討していくことが必要だと思う。早急に、議事録を作成するよう、検討すべきだと思う。                                                                                                                                                                                    
《参考記事》
「政府の原災本部 議事録を作らず」NHKニュース2012年1月22日 17時44分 
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120122/k10015450241000.html
「官房長官 原発議事録の作成を」NHKニュース 2012年1月23日 13時43分  
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120123/t10015463821000.html

2012年1月17日火曜日

新築マンションで、高い放射線量

報道によると、15日、福島県二本松市は、昨年7月市内に完成した3階建ての賃貸マンションの1階室内で、屋外よりも高い毎時1マイクロ・シーベルトを超える放射線量を計測したと発表。東京電力福島第一原発事故で出た放射性物質で汚染されたコンクリートが使われていたことがわかった。

 同原発事故で計画的避難区域になった福島県浪江町のエリアにある採石場の砕石を原料とするコンクリートが使われていた。原発事故後も、この採石場からは、事故後も計画的避難区域に指定される4月22日まで出荷を続け、福島県内の19社に合計約5200トンの砕石が出荷された。このうち、マンションにコンクリを納入した二本松市の会社からは県内の百数十社に販売され、道路工事など、数百カ所の工事に使われたという。経済産業省などが最終販売先を調べている。

 マンション1階の室内に24時間滞在すると仮定すると、年間の線量は10ミリシーベルト前後になるという。マンションには原発事故で避難している人たちが多く住んでいる。二本松市は、1階の4世帯には転居してもらう方向で国や県などと協議する。

 17日、枝野経済産業相は閣議後の記者会見で、「発表まで時間がかかたのは事実で、残念」と述べ、対応が迅速さに欠けていたことを認めた。
 昨年12月29日、同省に二本松市から「マンション1階で高い放射線量が計測された」と内閣府を通じて連絡があった。線量が高かったのは1階部分だけだったため、コンクリートが原因と判断せず、本格的に調査を始めたのは、市側から「砕石を用いたコンクリートの可能性が高い」と報告を受けた今月6日からで、公表は15日だった。

 枝野経済産業相は「少しでも詳細な情報がほしいという当事者の思いを受け止めなくていかねばならない」と述べたという。又、前田国土交通相はマンション1階部分の住民支援について、「くぁりの住居の手当ても含め、できるだけのことをしたい」と述べたという。

 原発事故後、放射性物質がどのように拡散していくのか、気象条件などを加味して予測するシステム「SPEEDI(スピーディ)」などがありながら、住民の避難指示などにこれらの情報が十分いかされなかったことがこのような事態を招いたともいえる。放射性物質に汚染された大量の砕石がどこにどのように使われたのか、早急に調査して対策を講じてほしい。

《参考記事》
「新築マンションに浪江の砕石、高い放射線量」(2012年1月16日08時17分  読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20120115-OYT1T00582.htm
「汚染コンクリの対応、迅速さ欠いた…枝野経産相」(2012年1月17日13時01分  読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120117-OYT1T00612.htm

2012年1月11日水曜日

JR福知山線脱線事故、前社長に無罪判決

 報道によると、乗客106人と運転士が死亡し、562人が負傷した2005年4月のJR宝塚線(福知山線)脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長の山崎正夫被告(68)の判決が11日、神戸地裁(岡田信裁判長)で言い渡された。
 岡田信(まこと)裁判長は「現場カーブで事故が起こる危険性を認識していたとは認められない」と判断し、検察の求刑禁固3年に対して、無罪を言い渡した。 

 
 事故は、2005年4月25日、兵庫県尼崎市のJR福知山線の急カーブで起きた。快速電車が制限速度を46キロ上回る時速116キロでカーブに進入、曲がり切れずに脱線し、線路沿いのマンションに激突し、乗客や運転士107人が亡くなるという悲惨な大事故になった。

 現場のカーブは、当初、半径600メートルだった。1996年12月、別路線との直通運転を円滑にする目的などで、半径304メートルの急カーブに付け替える工事が行われた。
 
 最大の争点は、工事完了時に安全対策を統括する常務鉄道本部長だった山崎前社長が、現場カーブの危険性を認識し、事故を予測できたかどうかという点だった。

 検察側は、急カーブ化などで、「現場はJR西管内でも最も危険性の高いカーブになった」と指摘した。そして、前社長が危険性を認識しながら、現場カーブに自動列車停止装置(ATS)設置を設置しなかった過失は重いとして、禁固3年を求刑していた。

 これに対して、弁護側は、現場急カーブでは、工事後約8年間、列車が60万回以上安全に運行した点などをあげ、事故の予見可能性を否定した。「当時の鉄道業界で脱線の危険性の観点から、個別のカーブを選んで、ATSを設けた例はなかった」などとして、山崎前社長の無罪を主張した。
山崎前社長も「運転士が制限速度をはるかに上回る速度でカーブに進入するとは思わなかった」と事故を予測できなかったと主張した。

 また、裁判では、事故後、兵庫県警の依頼で事故の鑑定を行った松本陽氏(事故当時独立行政法人交通安全環境研究所員、現運輸安全委員会鉄道部会長)が、半径600メートルから304mに付け替えられた際、カーブ手前との制限速度差は、最大で50キロに拡大した点について、「相当例外的。大きな減速を必要とする箇所は、(安全対策上の)重要なファクターという考えは昔からあった」と指摘し、国の省令で線区の最高速度が110キロ以上の場合、カーブの半径は600mにとどめるべきだとしていることを紹介した。そのうえで、「現場カーブはリスクが高く、速度をチェックできるATSの設置が適当だった」という見解を示したという。松本氏は、いつ設置すべきだったかについては、「判断できない、事故後に鑑定書を作成した時点での認識」とした。

 この事故で、娘の中村道子さんを亡くした藤崎光子さんは「JR西の企業体質は事故前と変わっていない」と失望していた。捜査段階では、現場カーブの危険性を認めたとされる同社関係者までが、裁判では態度を変えて、弁護側主張に沿って証言、「組織を守る」という社風を痛感したという。
 藤崎さんは「幹部が法廷に立つことで事故原因が明らかになる。再発防止に向けてJR西が変わるきっかけになればよい」という思いで、初公判を傍聴した。しかし、前社長は予見可能性を否定した。藤崎さんは「本当に危険性を認識していなかったのか」と疑問に思った。
 藤崎さんは、捜査資料を閲覧するため、神戸地検に通い、コピーなどはできないため資料を書き写した。ファイルにとじた資料は前社長分が11冊、歴代社長分が15冊になる。藤崎さんは、「すべての裁判を見届けて責任の所在が明らかになるまで死ねない」と語っているという。

 今回の判決で、前社長の刑事責任は問われなかった。また、刑事裁判が個人を処罰するものであるため、JR西の組織としての問題点が問われることはなかった。
 しかし、裁判長が判決の中で「JR西には、鉄道事業者に要求される安全対策の水準に及ばないところがあった」と指摘したという。刑事裁判の無罪判決がJR西という企業を免責するものではない。むしろ、JR西に、事故の再発防止という大きな課題が残されたままであることに変わりはない。
 事故の被害者に真しに向き合って事故の原因と責任を明らかにしていくこと、同じような事故を二度と起こさないため企業体質を見直していくことが必要だと思う。

 
 
《参考記事》
「JR脱線事故、山崎前社長に無罪 『危険性認識できず』」朝日新聞2012年1月11日http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201201110063.html
「JR西は再発防止に全力を 前社長無罪」産2012.1.11 13:06