11月27日、高知地裁で、今年4月JR土讃線の踏切でハンドル型電動車いすに乗って踏切を横断しようとした女性(86歳)が、踏切の中に取り残され、特急列車にはねられ死亡した事故の遺族が提訴した裁判の第1回公判があった。
訴えによると、事故のあった踏切は、単線で、幅約6.4 m、道路直進幅約7.2m、交通量が多く、警報機と遮断機がつけられているが、踏切で事故が発生した場合、緊急に列車に知らせる非常ボタン(踏切支障放置装置)がなかった。そのため、閉じ込められても、事故を回避するために、迫りくる列車に、踏切上の緊急事態を知らせ、踏切の手前で止まってもらうことができなかったことが事故発生の要因だとしている。
ところで、国土交通省令によって、複線区間では、警報機が設置されている第1種・第3種踏切とも、踏切の幅や道路通行量、列車の本数に関係なく、非常ボタンの設置が義務付けられている。
一方、単線区間では非常ボタンの設置が義務付けられておらず、単線の多い北海道や東北、四国のJR路線、地方の中小民鉄では第1種踏切であっても設置されていない踏切が多いという。地方の路線では、単線でも特急が数多く走っており、事故のあった土讃線佐川では一日の列車本数は上りは30本余りだが、そのうち10本は特急列車である。時速100㎞を超す特急が走っているのに、非常ボタンや、立ち往生した車などをセンサーで検知し列車に知らせる踏切障害物検知器が設置されていないのは、安全対策として不十分ではないかと思う。
また、訴えによると、事故のあった踏切は交通量が多いにもかかわらず、非常ボタンが設置されていないのに、同じ町内の当該踏切よりも小さい踏切には、ほとんどの所に非常ボタンが設置されている。JR四国は、当該踏切には非常ボタンを設置する義務はなかったとしているが、周辺の踏切には設置しているのに、なぜ、この踏切には設置していなかったのか、その根拠を語るべきではないかと思う。
遺族によると、この踏切から列車の来た方向の見通しは悪く、100メートル先にカーブがあるという。踏切が見えてから、特急列車の運転士が踏切の事故発生に気づきブレーキをかけても、非常停止するには200mほどかかるのだから、踏切で止まることはできない。ならば、踏切が見えるもっと手前で、安全に止まるため急制動をかけられるように、踏切の緊急事態を運転士に知らせる装置が必要ではないかと思う。
JR四国は、女性が踏切に閉じ込められても、踏切を横断して片方の遮断棹を押し上げて踏切の外に出るべきだったとしているが、遮断棹は車両なら押し上げることはできても、車いすに乗った人が押し上げるのは困難である。高速で接近する特急が迫っている時、わずか数秒で遮断棹を押して出るのは、健常者であっても難しいと思う。
「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年)によれば、踏切道は、踏切道を通行する人や自動車などの安全かつ円滑な通行に配慮したものでなくてはならず、そのために踏切保安設備を設けること、踏切保安設備は、踏切道通行人等および列車等の運転の安全を確保する機能を備えていなくてはならないとしている。
踏切は、健常者だけが利用するのではない。むしろ、自分では自動車で移動できない児童や生徒、高齢者、障害者など交通弱者も同じように利用する公共的な施設なのだから、交通弱者の利用も考慮に入れた安全対策が、鉄道事業者には求められると思う。
《記事》
車いす女性踏切事故死:賠償訴訟 JR側「全面的に争う」--地裁で口頭弁論 /高知
http://mainichi.jp/area/kochi/news/20091128ddlk39040742000c.html
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