2年前の9月27日、インターネットで、秩父鉄道の東行田にある桜町踏切でおきた事故のニュースを見た。ニュース映像に映る踏切を見て、これが踏切なのかと驚いた。狭くて、警報機も遮断機もない踏切で、周りは雑草が生い茂っているようだった。ニュースを報じたテレビ局に桜町踏切の場所を聞き、現場をたずねた。
(下の写真は、秩父鉄道東行田市桜町踏切。今月、第1種踏切に改善されることが決まり、今年度中に踏切保安設備が設置されることになった。写真は事故直後の2008年10月8日撮影したもの)
踏切にたつと、こんなところで、なぜ、中学生が尊い命を落とさねばならないのかと、納得がいかず、やり切れない気持ちになった。
その後も、踏切事故がおき、ニュース記事の意味がわからないと報道機関に問い合わせ、現場に行ってみた。
出かけて行った事故の現場は自宅から日帰りで行けるところがほとんどで、すべての踏切事故の現場に行ったわけではない。
それに、踏切に行き初めた時、踏切事故の原因を考えたり調べるということは考えてもみなかった。事故の原因や安全対策は、鉄道事業者や専門家の方々が考えて下さるものだと思っていた。事故で亡くなった方の冥福を祈りたいという気持ちが強かった。
でも、現場に行ってみると、亡くなった方の冥福を祈ることができない、亡くなった方は、まだ安らかに眠ることができないのではないか、と思った。
どうしても、どうぞ安らかに…と言えなかった。
私の母がそうであると思うように、踏切で亡くなった方々は、まだ、もっと生きたかった、いろいろなことがしたかったと、思っているのではないかと、思えた。
そして、何よりも、亡くなった方々が、「なぜ、こんなところで死ななくてはならなかったのか」と、突然の死の意味を問いかけてくるように思えた。
その問いは、私自身のものでもある。
なぜ、東武鉄道本社の担当者たちは、竹ノ塚駅の踏切保安係の仕事を知ろうとしなかったのか、
なぜ、事故のあったあの日、踏切の保安係たちは社内規定どおり組になって仕事をせず、遮断機の上げ下げを一人の保安係にまかせていたのか、
なぜ、東広島市の堀川踏切(第4種踏切)では、3台の列車が止まらず高校生を撥ねたのか、なぜ1台目の列車は非常停止しなかったのか、
高知の佐川町の白倉踏切(第1種)では、周囲の踏切にはあるのに、なぜ、ここだけ、非常停止ボタンがないのだろうかと思った。
なぜ、秩父鉄道の桜町踏切(第4種)には、急行が走るのに警報機も遮断機もないのだろうかと、思った。
なぜ……
(下の写真は、東武伊勢崎線竹ノ塚駅近くの踏切。事故後、踏切は自動化され、エレベーター付きの歩道橋が設置された。長さ33mもある踏切では、安全のため、警備員が通行者の誘導にあたっている。2009年8月撮影)
いくつもの素朴な問いかけに、納得のいく答と、有効な安全対策をうち出してくれるところがないまま、危険な踏切がいろいろなところに放置されているのではないか。
それは、竹ノ塚の踏切の問題と同じ構図ではないのか、このままでは、また同じような事故が起きるのではないか。
その不安と恐怖は、幾度も現実のものとなって、やり切れない思いと胸苦しさに、何度もおそわれた。
踏切事故が、渡る人の過失や不注意だけではなく、踏切そのものの危険性や安全対策の不備に目を向けられないまま、放置されれば、同じような事故がくりかえされる。
極端な事を云ってしまえば、事故の原因が渡る人の過失や不注意だけにあるなら、不注意な人間が亡くなれば(つまり減れば)、事故も減るはずだ。
しかし、むしろ、ここ数年踏切事故の死傷者数は横ばいだし、踏切事故は減るどころか、平成21年度は41件(13.4%)も増えた。そうなると、原因は、渡る人だけにあるのではなく、他にもっと根本的な原因があるのではないか。
なぜ、昨年度は踏切事故件数や死傷者が増えたのか、国土交通省鉄道局の担当者に問うたが、担当者は調べていないそうだ。
事故を一つ一つ丁寧に調べて、類型化し、対策を検討し、根本的な対策をとらなければ、事故や死傷者は減らないのではないだろうか。
踏切事故の現場の様子や事故の状況を知り、できるだけ多くの方がたにお伝えすること。
それが、私が唯一、亡くなった方がたに対してできることではないかと、自分に問うてみる。
桜町踏切の事故から2年、あらためて、私にできることを問いなおし、少しずつ積み重ねていこうと思った。
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