今月16日、名古屋市内で、今後のエネルギー政策について、政府の第3回意見聴取会が開かれた。発電量に占める将来の原発比率について、政府が国民の意見を直接聞くものだが、発言者の中に中部電力の現役の原発担当の課長が含まれていた。
報道によると、中部電力の課長は、個人としての意見と断りながら、
「福島第一原発事故で放射能の直接的影響で亡くなった人は一人もいない」「原発をなくせば経済や消費が落ち込み、日本が衰退する」と述べ、「(政府)は、原子力のリスクを過大に評価している」とのべたという。
たしかに、直接放射能に影響で誰かが亡くなったという報道は見聞きしない。しかし、直接的な死者数では、今回の原発事故の影響をとらえることができないのではないだろうか。
原発事故によって、大量の放射性物質が放出されたために、周辺の住民や病院の患者や福祉施設に入所する人たちが、緊急に避難させられた。そして、県や自衛隊や警察による搬送中だけでも、高齢の重症患者15人が亡くなっているという。
又、復興庁の震災関連死に関する検討会の調査では、福島県内の災害関連死者数は、今年3月末現在で761人にのぼる。そして、その多くが原発事故による避難者とみられている。
避難所への移動中の肉体的・精神的疲労や避難所における生活の肉体的・精神的疲労が、死亡原因として圧倒的に多いことがわかっている。
このような死亡者数という明らかになった数字だけでは、その被害の実態は把握できないだろうと思う。住み慣れた町や村を離れて、遠くの慣れない土地で暮らすストレスや将来への不安ははかりしれないものだ。
発言した中部電力の課長には、この被害の現場に身をおいて問題を直視しようとする発想がないと、柳田邦男氏は指摘する。柳田氏は、政府の福島第一原発事故調査委員会やJR福知山線脱線事故調査報告書の検討会の委員の一人として、事故調査にあたってきた。
事故から1年以上たっても、避難生活を余儀なくされている人は、約16万人にのぼるという。柳田氏は、その避難している人の一人がもし自分の親だったらと、被害に遭っている人々に寄りそう潤いのある目を、官僚や公共性の強い企業人には持ってほしい、そうしないと国民の命を守ることはできないと訴える。
そして、柳田氏は「原発はプラントの安全性だけで成り立つのではない、地域の人々の命や生活の安全を不可欠の条件とする社会システムなのだという意識」が、電力会社には希薄なのではないかともいう。
住民や被害者の視点から、原発の安全性を徹底的に検証してこそ、政府や電力会社は国民の信頼を得られるのだと、気づいてほしい。
《参考記事》
○「『命の現場』の視点で検証を 柳田邦男」毎日新聞 2012年07月23日 東京朝刊6面
○「死因最多は『避難生活の疲れ』 震災関連死の調査公表」2012年7月13日03時00分朝日新聞http://digital.asahi.com/articles/TKY201207120671.html
○「また電力社員が発言 名古屋聴取会」2012年7月17日 東京新聞朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012071702000092.html
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