昨年、被災地での法律相談などを通じて、この債務問題が被災者の大きな悩みであることを知った日本弁護士連合会ではこの問題の解決策を各方面に働きかけた。2011年7月、この働きかけを一つの契機に、金融庁、金融機関、最高裁、有識者などからなる研究会が発足した。
研究会での検討の結果、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が制定され、2011年8月から運用が開始された。
この制度は、
①被災者の資産事情に応じ、一定の弁済をすれば、残額は免除される
②手元に義援金や支援金のほか500万円の資産を残して、生活再建できる
③保証人も利用できる
④破産などの法的手続きが不要
⑤信用情報に登録されない
⑥利用無料――など
被災者にとってたいへん有益な制度のはずである。
しかし、この制度を運用する一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会の発表によると、2012年7月末までに、成立に至った件数は43件にすぎないことがわかった。
被災後1年間に、被災3県に本店を置く地銀・信金・信組で返済条件変更(リスケジュール)された債務は1万6423件にのぼり、重い債務を背負ったほとんどの被災者は、返済条件を変更するリスケジュールをしており、ローンを先延ばしされていることがわかった。つまり、ローンは減免されることなく、元金も利息も満額支払うことになる。
一方、日銀の金融経済概況によると、被災者への貸し出しは低調だが、預金残高は義援金や支援金などの入金で高い伸びを示し、一部金融機関の収益はV字回復をしているそうだ。
被災された方々の中には、本来ならば、生活再建に充てられるはずの義援金や生活再建支援金を債務の返済に充てている方も見られるという。全国から寄せられた善意の義援金や、特例法で注入された公的資金が、被災地金融機関の収益の改善に消えているといってもよい。
金融機関は債務者の身近な相談窓口として、また、公的資金を注入された金融機関は社会的責任として、被災者に上記のような減免制度があることを知らせ、積極的に利用することをサポートすべきではないかと思う。
金融庁は、今年7月24日付で、金融機関に対して被災者に対する被災ローン減免制度の紹介等を求めた。金融庁は、今後も、金融機関が積極的に減免制度を活用しているか監督、指導すべきだ。
被災された方々が平穏な生活をとりもどし、被災地を復興するためにも、①この制度の広報を徹底し、②被災地金融機関は周知活動し、③被災地自治体が積極的に関与するなどの対策が必要となる。
被災された方々の一刻も早い生活の再建を願うものとして、今後も、このような制度が活用されているかどうか、監督官庁が積極的に金融機関を指導しているかどうか、注視していきたい。
《参考》
「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」
2011年7月 個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会
http://www.kgl.or.jp/guideline/pdf/guideline.pdf
《参考記事》
<私の視点>「二重ローン対策 被災者に減免制度知らせよ」
(津久井進日弁連災害復興支援委員会副委員長)2012年8月11日付朝日新聞オピニオン欄
0 件のコメント:
コメントを投稿