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2014年11月27日木曜日

電動車いすのお年寄りが亡くなった踏切~滋賀県長浜市JR北陸線木之本踏切

 報道によると、10月24日、午前10時20分頃、長浜市木之本町木之本のJR北陸線木之本踏切で、電動車いすに乗って、踏切を渡っていた高齢の男性が、木之本駅を通過する名古屋発和倉温泉行きの特急電車に撥ねられて亡くなった。特急の運転士が踏切内の男性に気が付いて非常ブレーキをかけたが間に合わなかったという。
 警察によると、木之本踏切の警報機・遮断機は、正常に作動していたという。
 
 11月23日、木之本踏切に行った。木之本踏切は、JR北陸線木之本駅のホームのそばにあった。警報機・遮断機のある第1種踏切で、非常ボタンも設置されていた。木之本駅には各駅電車は停車するが、特急は高速で通過する。駅を出て踏切を渡ると、国道に出るために信号がある。踏切の長さは20m位で幅は8~9mはあるだろうか。
 踏切道は駅と国道を結び、北陸自動車道の木之本インターチェンジも近くにあるためか、車両の通行が多かった。歩行者用の路側帯は両脇にあるが、それぞれ1mもなく狭い。歩行者は車をよけながら、踏切を渡らねばならない。
写真① JR北陸線木之本踏切。左に見えるのは、木之本駅のホーム。手前の
線路が下り線。男性はこちら側から踏切に入ったが、線路を渡りきれなかったらしい。
下りの特急は右側から来て、木之本駅を高速で通過する。2014年11月23日撮影
私が訪れた日は、SL北びわこ号が運行される日だった。木之本駅には、SLの運行予定を調べて行ったのではなく、偶然SLに出会ったのだが、SLファンが多いのには驚いた。木之本駅はSL北びわこ号の終点で、ここからSLは機関車にひかれて米原へもどる回送電車になる。そのせいか、駅周辺は、SLを撮影に来た人たちの車両が駐車していたり、SLに乗車して木之本駅まで来た子供連れの人たちで混雑していた。
 木之本踏切を渡って100mほど先に信号があるので、車両が踏切と信号の間に多く入ってしまわないように、この日は、警備員の男性が車両の誘導にあたっていたが、SLの運行のない日は、警備員が踏切に立つことはないという。
写真② 木之本駅に到着したSL北びわこ号。2014年11月23日撮影
電動車いすを運転する男性が、どういう状況で踏切内に取り残されたのか、報道では定かではない。しかし、踏切道の路側帯をみると、幅が狭いうえに、途中に、車両が路側帯に入らないようにするためなのか、小さなU字型の柵がある。(下の写真③)
写真③ 路側帯にU字型の柵がある。      2014年11月23日撮影


写真④ 木之本踏切を通過する下りの特急電車。   2014年11月23日撮影
電動車いすの男性が、写真③のこちら側から、下り線路を渡ったところで、写真のような小さくても、柵があったら、通行できない。後戻りして、車道に入り直して先に進まなくてはならない。
 後進しようと、電動車いすを操作しているうちに、早い特急電車は踏切に来てしまう(写真④)。
男性がどちらの路側帯を通行していたのかわからないが、いずれにしても狭い路側帯を車両に注意しながら、踏切を通行するのは大変だ。
 
 
 電動車いすの事故は、(独)製品技術評価基盤機構が事故調査にあたる。また、今度、消費者庁の消費者安全委員会も、新しく電動車いすの事故を調査することを決めた。
 調査にあたる委員会には、男性の乗っていた電動車いすが製品として問題がなかったかどうかだけでなく、踏切の安全対策に問題はなかったかどうかも調査して、事故が減るよう、対策を検討してほしいと思う。
 急速に高齢化が進んでいるという日本。お年寄りは、一人で自立して行政や周囲に頼らずに生きていくように言われている。また、お年寄り自身もなるべく人に迷惑をかけないように、子供らの負担にならないようにと懸命に生きている。電動車いすや手押し車などに頼って必死に歩いて買い物や通院に出かけるお年寄りが増えている。そんな中、町の中はバリアフリーが十分進んでいるとは言いにくい。とくに踏切やホームでは危険が大きいと感じる。
 高齢者に「自立せよ」というばかりではなく、自立して安心して生きていけるよう住みやすい環境をつくるべきではないだろうか。

最後になりましたが、亡くなられた男性のご冥福を祈ります。
 
≪参考記事≫
「特急と衝突、車いすの男性死亡 誤って進入? 長浜の踏切 /滋賀県」朝日新聞大阪2014年10月25日
http://digital.asahi.com/article_search/detail.html?keyword=%E6%9C%A8%E4%B9%8B%E6%9C%AC%20%E8%B8%8F%E5%88%87&kijiid=A1001220141025M-SI-1A-014&version=2014112605

2014年11月25日火曜日

ハンドル型電動車いすの事故調査を決定~消費者安全委員会

 報道によると、11月22日までに、消費者安全委員会は、高齢者がハンドルで操作する電動車いすの事故について、新たに事故調査をすることを決めた。
 消費者安全委員会は暮らしの中でおきる身近な事故の原因を究明している。同委員会によると、ハンドル型の電動車いすは、これまでに47万台出荷されている。メーカーから消費者庁への報告によると、2012年度以降、13件事故が起き、そのうち9人が死亡、4人が重傷を負っているという。
 また、13件のうち5件は踏切で起きているという。

 電動車いすは、主に、身体に障害を持った方が操作するジョイスティック型電動車いすと、足腰の弱った高齢の方が操作するハンドル型車いすとがある。
 高齢化が進む中、お年寄りの外出を助けるものとして、急速に電動車いすを利用する人が増える一方、事故も起きている。製品事故を調査する(独立行政法人)製品評価技術基盤機構では、電動車いすの事故を調査対象として、調査を行い、事業者に改善を求めたり、利用者に注意を促している。
  電動車いすは時速6kmと、結構スピードが出るが、道路交通法では歩行者扱いで、
  免許がなくても運転できる。乗車してみると、乗る位置が低いせいか、会場に作られた
  坂道の上り下りは怖かった。しかし、足腰が弱ってきたら、必要になるかもしれない。
  福祉機器展で。  2014年10月3日撮影

 しかし、事故は減少する様子を見せないばかりか、踏切で電動車いすに乗った高齢者が電車に撥ねられて亡くなったり、段差で転倒して重傷を負うなど、電動車いすの事故が続いているのが現状だ。
 畑村洋太郎委員長は「車いす自体にさまざまな安全対策が施されてはいるが、高齢者が利用するという視点からさらにできることがないか、考えたい」と述べたという。
 事故調査することで、事故の実態がわかる。同委員会には、電動車いすの安全対策や踏切の問題点を探り、事故を未然に防ぐ方法を探ってほしいと思う。

≪参考≫
電動車いす安全普及協会では、電動車いすの種類や利用上の注意などについて説明している。
http://www.den-ankyo.org/index.html

拙ブログでは以下などで、電動車いすや車いすの事故を取り上げた。
●「踏切事故の現場をたずねて~高知県佐川町白倉踏切」2010年4月26日
 
http://tomosibi.blogspot.jp/2010/04/blog-post_26.html
●「電動車いすの女性が亡くなった事故~阪急神戸線旧庄本踏切」2014年5月6日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html
●「電動車いすのお年寄りが亡くなった事故~大阪府高石市南海本線羽衣7号踏切」2014年7月22日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/07/7.html
●「車いすで踏切を渡るこわさ」2014年10月20日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/10/blog-post_20.html

≪参考記事≫
「ハンドル型電動車いす事故を調査 消費者事故調 」2014/11/22 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H0C_S4A121C1000000/

2014年11月8日土曜日

再発防止と事故調査~JR飯田線湯沢踏切の事故調査報告書

 
  10月30日、運輸安全委員会は、今年4月12日に長野県飯田市のJR東海飯田線湯沢踏切(第4種、警報機・遮断機なし)で起きた踏切死亡事故について、事故調査の結果を公表した。
 遮断機のない踏切については、今年4月から、死亡事故に限り、運輸安全委員会の事故調査対象に加えられた。
 4月以降、運輸安全委員会は、8件の鉄道事故に事故調査官を派遣している。残念ながら、その        うち6件は踏切事故である。また、5件は、遮断機のない踏切で起きた死亡事故である。
 
 JR東海飯田線湯沢踏切の事故調査報告書(以下、報告書と略)については、運輸安全委員会のホームページで公表されている。報告書を読んで感じた疑問点を挙げてみたい。
 
 
 今年4月12日、長野県飯田市にあるJR飯田線湯沢踏切(第4種、警報機・遮断機なし、以下湯沢踏切と略)で、近くに住む男性の運転する農耕トラクタ(以下、トラクタと略)と、飯田線天竜峡駅発中央線茅野駅行の下り普通列車(2両編成)が衝突し、運転していた男性が亡くなった。
 報告書の「4原因」(7ページ)では、事故が、男性が「小型特殊自動車の通行が禁止されている湯沢踏切道に、トラクタが侵入したものの通過しきれず、列車と衝突したことにより発生したものと考えられる」と書かれている。
 また、報告書「4原因」では、列車が湯沢踏切に接近していることに気付かずに運転者がトラクタを踏切に進入させたのは、湯沢踏切の幅員が狭く、通常はトラクタで通行しない踏切道であったことから、運転者が運転に意識が集中していたことが影響した可能性があると考えられるという。

1. なぜ、トラクターの運転者は踏切を渡ったのか?
 報告書3ページで、湯沢踏切の交通規制について、事故当時、異なる標識があったことを指摘している。
 踏切の両脇には、「二輪の自動車以外の自動車通行止め」の標識が設置されている。一方、湯沢踏切の20m手前、踏切を通る市道と県道との交差点には、「二輪の自動車以外の自動車通行止め、小特を除く」の規制予告を表示する指示標識が設置されていた。「小特」とは、小型特殊自動車のことで、農耕トラクタも含まれる。
 しかし、自動車通行禁止であるなら、踏切の入口にポールなどを設置して、自動車が進入できないようにすべきだと思うが、事故当時は設置されていなかった。報告書には、道路管理者が再発防止策として、事故後今年9月に金属製の杭を設置したとある。


JR東海飯田線湯沢踏切。男性はこちら側から、トラクタに乗って踏切に入って
渡ろうとしていた。柵があるので、斜めに入らねばならない。2014年4月29日撮影

   報告書4ページには、この指示標識が、踏切に設置されている標識と相違した表示であることから、本事故後に、この標識は撤去されたとあるが、どうしてこのような矛盾する表示がされていたのか、報告書には記述がない。
 信濃毎日新聞の報道によると、どのような経緯で異なる規制が表示されたのか、飯田署や長野県警に取材したが、警察ではわからないとの返答だった。
 報告書では、亡くなったトラクタの運転者がトラクターの通行禁止を知っていたかどうかはわからないとしている。
 事故がなぜ起きたのかを考える上で、交通規制がどうなっていたのかという点は重要なことだと思う。
 一人の人間の命が関わっているのだ。いつから、異なる交通規制の表示があったのか、もし調査したのなら記載されるべきだし、調査していないのなら調査すべきだと思う。

2. なぜ、トラクターの運転者は列車を確認できなかったのか?
 報告書の中で、湯沢踏切から列車の来た方の見通しについて、調査した結果が記されている。
 湯沢踏切付近は半径400mの右曲線(列車の進行方向に対して、以下、左右は列車の進行方向に対して)で、列車からすると線路は下り坂である。同踏切の左側は、市道が踏切で左に曲がり上り坂になっている。そのため、トラクタの男性が来た踏切左側から、列車の来た伊那上郷方面を見ると、この坂道が邪魔をして見通しが悪い。

湯沢踏切の周辺図と事故現場略図。豊橋を起点として
距離が書かれているので、わかりにくい。
図の中に本文中で説明されているポイントを記入するとよい。
(図は、運輸安全委員会事故調査報告書よりコピー)

報告書には、踏切の左側から伊那上郷駅方面を見た列車見通距離は、150mとある。また、トラクタが進んだとされる経路上で、もっとも列車を見通せる位置についても検討している。
 6ページには、トラクターが列車と衝突した踏切右レール上から約10m手前の位置付近が、最も列車の見通しがよいが、トラクタがその位置にいたとき、列車は踏切から約370m付近を走行していたから、トラクタの運転者は、接近する列車を確認することはできなかったものと考えられると指摘している。
 トラクタの運転者が、近づく列車に気が付かなかったのではなく、そもそも踏切から見える位置に列車が来ていなかったのである。


湯沢踏切の入口に立って、列車の来た伊那上郷駅方向を見る。
左には草が茂り、右側には鉄塔があって、列車の来た方角は
上り坂になっており、見えにくい。150mほど先に、警報機・
遮断機のある第1種踏切の唐沢踏切がある。2014年4月29日撮影
 また、列車の運転士からも踏切が直前まで見えない。報告書によると、運転士は約70m前方にある湯沢踏切道内の右レール付近に、右側を向いたトラクタを認めたと話している。運転士は、すぐに非常ブレーキを使い汽笛を鳴らしたが、踏切の右側にいたトラクタと列車の右側が衝突し、約140m走って止まった。
  唐沢踏切から見た湯沢踏切方面。下り坂になっている。列車の運転士は、
  踏切手前70mあたりで、湯沢踏切にトラクターに乗った男性がいることに
     気付いたという。唐沢踏切と湯沢踏切は150mほど離れている。
  報告書によると、運転士からの踏切見通しは40m。  2014年4月29日撮影
列車の運転士がトラクタを認めてから止まるまでの距離140mと70mを、単純にたすと210m。これからすると、この列車が、踏切の手前で安全に止まるには、210m以上必要だということだ。それなら、運転士が気が付いた70m手前よりも、もっと手前から、踏切の異常が運転士にわかるための対策をとるべきではないだろうか。

3. なぜ、トラクタは踏切内に取り残されたのか?
 ①湯沢踏切の入口には踏切注意柵があるため、トラクタは斜めに踏切に進入する。そのため、踏切を斜めに横断することになる。ななめに横断すると、レールに車輪がはさまったり、ハンドルをとられやすい。
 ②湯沢踏切に接続する道路は市道で、舗装されていない。踏切には、レールをまたぐ幅1.8m長さ2mの敷板が敷設されているが、敷板が短く、敷板と市道までの間はバラストと呼ばれる砕石が敷かれている。市道と踏切の敷板との間がゴロゴロとした石では歩きにくいし、トラクタでは、ハンドルをとられやすいと思う。
 ③幅が1.8m、長さ2mしか敷板のない踏切を渡るには注意が必要だ。トラクタ本体と田畑の耕うんを行うロータリー装置を含め、トラクタの全長は3.2m、全幅1.40m、全高1.24mある。トラクタが脱輪しないように速度を落としてゆっくりと渡らねばならない。
 報告書によると、トラクタの運転者は、変速レバーが前進2段(時速1.62km、秒速約0.45m)と、速度を落として踏切に入っている。男性は、踏切をゆっくりと慎重に渡っていたのだろうと思う。  トラクタの最高速度は前進6段(時速12.56km、秒速約3.49m)だが、走行中に変速できない構造だった。
 列車の汽笛を聞いた男性は、間近に迫っている列車に気付き、どれほどの恐怖を覚えたことだろうか。当時の男性の心境を思うと、やりきれない。

男性は、こちらからトラクタで踏切を渡ろうとした。敷板と市道の間は
舗装されていない。ゴロゴロとした砕石が敷かれ、渡りにくい。
                                 2014年4月29日撮影

4. 運転者に唐沢踏切の警報音は聞こえただろうか?
 報告書5ページには、湯沢踏切の手前150mにある唐沢踏切(第1種、警報機・遮断機あり)と、約100m先にある座光寺踏切(第1種、警報機・遮断機あり)の両踏切の警報音は、湯沢踏切で聞くことができたとある。また、座光寺踏切の全方位型警報灯が明滅するのが見えたと記述されている。
 湯沢踏切を通行する者は、湯沢踏切に警報機がなくても、列車の来た方角150m先にある唐沢踏切の警報音や、元善光寺方向100m先にある座光寺踏切の警報音と警報灯の明滅を見て、列車の接近に気付かなくてはいけないとうことだろうか?

  しかし、トラクタを運転していたら、トラクタの走行する騒音(報告書によると、定常走行騒音75dB)で、列車の来た方角にある唐沢踏切の警報音は聞こえないだろうと思う。
 また、報告書によると、この湯沢踏切手前の付近は住宅があることから、第4種踏切の手前では汽笛合図を行うことを指示する標識が、設置されていないという。
 つまり、湯沢踏切の手前では、列車の接近を知らせる汽笛が鳴らされない。列車の接近を知るには、湯沢踏切の付近にある唐沢踏切や、座光寺踏切の警報音などに頼らなくてはならないということだ。
 

 警報機や遮断機のない踏切では、どちらから列車が来るのかわからない。湯沢踏切のような列車の来る方角が見通しの悪いところでは、踏切通行者にとっては列車の接近していることが、列車の運転士にとっては踏切の異常事態がわからず、危険だと思う。
湯沢踏切から元善光寺駅方面を見る。100mほど先に警報機・遮断機のある
座光寺踏切がある。                      2014年4月29日撮影

  遮断機のない踏切で事故調査を開始するにあたり、運輸安全委員会の後藤委員長は、3月26日の会見で「運輸安全委員会としては、原因究明のための適確な調査を行うことで、踏切障害事故の再発防止及び被害軽減に寄与して参りたい」と語っていた。
 遮断機のない踏切で事故調査が開始され、踏切事故の実態が広く一般に知られることになった。踏切事故を無くしていくために、さまざまな分野の方々の知見と英知が集まることを期待したい。

≪参考≫
運輸安全委員会ホームページ
「RA2014-9 鉄道事故調査報告書 Ⅲ 東海旅客鉄道株式会社 飯田線 伊那上郷駅~元善光寺駅間  踏切障害事故 平成26年10月30日」
http://www.mlit.go.jp/jtsb/railway/rep-acci/RA2014-9-3.pdf
拙ブログ、湯沢踏切については
「遮断機のない踏切で事故調査~JR飯田線湯沢踏切」2014年4月30日
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/04/jr_30.html
≪参考記事≫
「トラクター進入 内容違う2標識 飯田署事故後に1つ撤去」信濃毎日新聞2014年10月31日付