東京大学法医学教室では、今年、司法解剖について遺族にアンケートをとった。その結果を、6日、学会で発表する。
アンケートの結果によると、多くの遺族が、司法解剖について十分な説明を受けていないことが分かり、その後も解剖結果について十分説明を受けていないことが、遺族に苦痛を与えていることがわかった。法医学教室では、警察庁と相談して、遺族に説明するためのパンフレットを作成、遺族の理解を得られるようにする。
私たちも、母が事故に遭った際に、遺体は司法解剖に回されたが、事前に何のためにするのか、した後、どのような手続きがあるのか説明してもらえなかった。警察が解剖にもって行くというから、そうするものなのだろう、と思って、疑問も持たなかった。 解剖後、遺体の一部が証拠として保存されていることや、一定の保存期間がすぎたらどうするのかなど、まったく知らなかった。
また、解剖が終わるまでの間、東大のどこで、どのくらい待っていたらよいのかもわからず、東大の構内や本郷通りを歩き回って、解剖が終わるのを待っていた。
そんな私たちの経験を、ご主人が東大で司法解剖を受けた犯罪被害者の方に話したことがきっかけで、わたしも、東大法医のアンケートをいただいた。面談にも応じて、いろいろな思いをお伝えした。
面談する前に、3年半ぶりに東大の構内を歩いて、医学部の法医学教室の周りを歩いてみた。事故当時は、春浅い3月で春休みだったこともあり、がらんとした東大の構内で、座るところを探すのが難しかった。夕方になり、暗く寒くなってくる中で、ぼんやりと母の遺体が引き渡されるのを待っていたことを思い出し、自然と涙があふれてきた。
今、構内には、公園の散歩道のように、ベンチがあり、赤門を入ると明るい喫茶室がある。
《以下は参考記事》
司法解剖、被害者遺族に説明へ 東大法医学教室 2008年12月3日17時16分
事件や事故で死亡した人の司法解剖をめぐり、東京大学の法医学教室が、遺族の求めがあれば、捜査に差し支えのない範囲で死因について説明するとの方針を打ち出した。司法解剖は捜査上の要請で行うため、慣例的に「医師は遺族に会わないもの」とされてきたが、直後に誰がどのような説明をするかが遺族の苦悩に大きく影響していることが、調査でわかったからだ。
司法解剖は、死因究明のため裁判所の許可状を得て警察・検察が法医学者らに鑑定を嘱託する。病理解剖と違い、遺族の同意を必要としない。遺族にとっては、事件の直後に、拒んでも実施されるため、つらい記憶となることがあると指摘されてきた。
東京大は、地下鉄サリン事件をはじめ多くの事件で解剖を手がけ、東京都区部で司法解剖の件数が一番多い。
法医学教室の大学院生・伊藤貴子さんが今年2~11月、司法解剖をされた人の遺族にアンケートし、首都圏を中心に全国126人から回答を得た。71%が「手続きがよくわからず、納得いかないままとりあえず」了承したと答え、「解剖後に執刀医から説明を受けたかった」との要望は82%にのぼっていた。
また、多くの人が警察から「解剖が必要だ」との説明を受けていたが、自由記述では、「警察に必要なだけで、遺族に必要なものなのか」「目的を説明すべきだ」などと書かれていた。
この調査結果をもとに司法解剖の意味や流れを丁寧に説明した遺族向けのパンフレットを作り、そのなかで、解剖の当日でも担当医が説明する姿勢を明記した。
同教室の吉田謙一教授は「これまでは、検察に聞いても『説明しないでくれ』と止められた。しかし欧米では説明するのが当たり前だし、すべての事件で家族が疑わしいわけではない。医師は死因を書いた死体検案書を遺族に交付するので、その範囲なら説明できる」と話す。
今回は、警視庁ともパンフレットの文面を詰めた。東京地検の畑野隆二・総務部副部長は「詳細な説明までされると刑事訴訟法(初公判前の開示の禁止)の趣旨に反するが、解剖当日にわかることはそう多くない」と理解を示している。
この調査報告「遺族から見た司法解剖」は、6日午後1時から東京大医学部で開かれる日本賠償科学会研究会で発表される予定だ。(河原理子)
http://www.asahi.com/national/update/1203/TKY200812030110_01.html